【中小企業】親子間の事業承継!その道筋を事例で解説
中小企業が事業承継するのに、「親から子へ」という形が古くから行われてきました。ただ、現代は昔と比べ、親族間の事業承継(同族承継)も下のグラフの通り、減少傾向にあります。
今回、紹介する事業承継は、結果として「親から子への承継(親族内承継)」の準備が、着々と進み、そうした中でも事業が順調に伸びていった事例を紹介します。
ここで紹介する会社は、「株式会社糸惣」様で、歴史ある企業ですが、取り扱っているものが、障子紙・襖紙といったもので、時代の流れを考慮すると、事業承継を考える際には、躊躇してしまうのも無理はないといった状況でした。
そんな「株式会社糸惣」様がどの様にして「親から子への承継(親族内承継)」を実現に向けて動き出したのか、事例を通して解説します。特に「親から子への承継」で悩まれている方も多いので、参考にしていただければ幸いです。
親から子へ(親族内承継)には様々なハードルがある
親から子へ事業承継するには、様々な問題があります。
- 親子だからこそ意見が対立しやすく、冷静に意見交換をしにくい。
- そもそも親子で仕事の話をじっくりとすることがない。
- 子は親を見て、仕事の厳しい面もしっているために、後継者になりたくないと考える。
など、心理的な要因も大きく、事業承継に頭を悩ませている方もたくさん見受けられます。
詳しくは、事業承継が上手くいかない?その理由は意外とシンプルの記事でも紹介しています。
当然、ここで事例として紹介する「株式会社糸惣」様の場合も、事業承継するにあたり、様々な障害がありました。この障害をどの様にして乗り越えていったのか紹介します。
STEP1 関係者の理解を得るための土台作り
親から子へ事業を承継するにあたり、最も大切な部分が、「理解を得るための土台作り」です。この部分がしっかりとできていると、様々な困難も乗り越えることができます。
この土台作りで最も重要な点は、
関係者が考えていることをお互いを尊重しながら話せるようにする
という点です。ここで言う関係者とは、現経営者(親)・後継者(子)・従業員、場合によっては取引先も含まれることがあります。
ところが、問題となるとなるのは、「親子だからこそ…」という点であり、
- 小さな頃から仕事の様子は見ている。言わなくても伝わっているだろう。
- 親のようなやり方は時代にあっていないから、時代に応じて変えるべきだ。
この様な感覚を中心となる二人が心のどこかでもっている事が非常に多く見られます。また、親の存在感があまりにも大きく、「親に対して意見を言いにくい」というケースも珍しくありません。
この様な状態で、コミュニケーションの時間を設けたところで、表面的な会話に終わってしまうのが正直なところです。
そこで、「株式会社糸惣」様の場合は、第三者であるという立場を利用して、事業継承の中心となる二人の想いを聴くところから始めました。さらに、従業員の方々の声も合わせて聴き、私を含めた3人で話をする場を設けていただくことにしたのです。
この様な形をとるメリットはかなり大きく、
- 考えが表現しきれていない部分について補うことができる。
- 第3者がいることで冷静に考え、話をすすめることができる。
- 私が質問をすることで、普段考えることが難しい部分にまで思考が広がる。
など、様々あります。こうすることで、お互いが「えっ!そんな風に考えていたの?」という発見が生まれてきました。こうした発見や驚きを何度も繰り返すことによって、お互いが尊重しあえる土台ができていくのです。
「お互いに尊重しあいましょう」というのは、簡単なことですが、それで尊重しあえる様になることはありませんから、どうすれば、大きな驚きや発見が生まれるだろう?と考えるのです。これがしっかりとできると、承継だけではなく、その後の事業も良い形に発展していきます。
STEP2 事業承継の方向性を定める
伝統ある企業の経営者ほど「次の代は自分の子に…」という想いが強くなる傾向を感じますが、大切なポイントは、
〇〇であるべきだ!という考えを捨てて、最善策は何か?
を考えることです。ここで言う最善策は、非常に複雑ですが、
- 現経営者にとって良い
- 次の代の経営者にとって良い(子どもとは限定せずに)
- 従業員にとって良い
- 取引先にとって良い
これらを満たすにはどうすればいいのか、方向性を決めることです。私の経験では、M&Aを望まれるケースはありませんでしたが、この段階では、M&Aも案の土俵に挙げてもいいと考えています。
とにかく、「〇〇であるべきだ」という考えを捨てて、子どもへの承継・内部昇格・事業規模縮小・M&A…などあらゆる手段を見つめ、方向性を定めていくことが大切です。
特に、「親から子へ」の承継の場合は、幼い頃から「大きくなったら会社を継いでね」と言われながら育った方も多いために、自分の考えを無視して「そういうものだ」と思い込んでいるケースもあります。この様な場合は、「自分が後継者にならないのはダメ」という想いがどこかにあり、アイディアを出す時に限定的になってしまいがちなので注意が必要です。
「株式会社糸惣」様の場合、伝統ある企業なだけに、「子どもが後を継ぐもの」という空気感が長年漂っていました。ところが、そういった考えが前提にあると、事業承継だけではなく、経営・組織作りもどうしても限定的になってしまうために、まずは、企業に関わる人がお互いに本音で話せる環境を作ることに注力しました。
上記のインタビューをご覧になると、親子間の会話もしっかりとされてきたことが分かるはずです。
STEP3 後継者の育成と新しい組織作り
事業承継の方向性が定まると、後継者の育成(教育)を行う必要があります。仮に先代の経営者と同様のスタイルで事業を承継するにしても、それは容易なことではありません。
- 経営に必要な知識、スキルの獲得。
- 将来展望(未来)を見る目を養う。
- 組織全体を理解し、組織をまとめる力。リーダーシップ性。
- 社外との関係構築。
などなど、従業員として学ぶものとは全く違ったものを学んでいく必要があります。この中でも最も重要かつ早い段階で身につけておきたいことは「組織全体を理解し、組織をまとめる力。リーダーシップ性。」です。
【通常の場合】後継者のリーダーシップ育成方法
後継者のリーダーシップを育成するには、様々な方法が考えられますが、一般的に中小企業の場合次の様な方法がとられることが多いです。
- 経営幹部全員をチームとみなし、研修を行う。
- 数年かけて様々な部署で働き、組織全体を見る目を養う。
- 実践的な研修会に参加し、与えられた課題を解決していく。
- マネージメントについて学ぶ。
実際に上記のどの内容も経営者が組織をまとめていく上ではとても大切なことです。私自身がこれまで様々な中小企業に関わってきて感じたことは、
従業員は経営者の想い、悩み、不安などを知らないことが多い
経営者は従業員の本音・悩みを知らないことが多い
ということです。「敢えて、こうした経営者の心情を従業員が理解する必要がないのでは?」と言われることもありますが、これでは、お互いに尊重し合える組織作りは難しいものです。この状態で、リーダーシップ性を発揮するスキル・考え方を学んで実践しても、思い通りに行きにくいものです。
きっと、あなたも「〇〇を学んだけれどもイメージ通りにいかないなぁ」と感じたことは、何度もあるはずです。
【心理資本経営の場合】後継者の育成・人間関係の構築のサポートを重視
そもそもリーダーシップは、どうすれば発揮することができるか?これはとても重要な課題ですが、
リーダーシップ性を高める知識・スキルだけでは、足りない
ということです。これまでにも様々なところで「リーダーに必要な要素とは?」などを問うアンケート調査が行われてきましたが、どのアンケート結果を見ても上位にあるものは、
- 決断力・行動力
- 器の大きさ・思いやり
- 場の雰囲気作り・コミュニケーション能力
この様な内容のものが入っています。特に、場の雰囲気作りについては、様々な研究が行われていますが、最も直感的に誰もが分かる例を挙げると…
授業をするための専門的な知識・スキルが高い先生よりも、子ども達との人間関係が良好な先生の授業の方が学習が楽しく、授業が盛り上がる。
ということです。
私がたまたま拝見した学校の授業も、先生が質問をされる前に、もう子ども達は先生の意図を汲み取るかの様に考えている場面が何度も見られました。
学校のクラスと中小企業の組織は、異なる部分がたくさんありますが、子ども達が先生のことをよく知り、先生が子ども達のことをよく理解しているという関係性の大切さを改めて感じたものです。
ただ、こういった関係性を後継者一人で築いていくことは非常に困難であるために、心理資本経営のサポートをしている中小企業の場合は、私自身が組織の間に入って、人間関係構築のサポートを行っています。
上記の様に離職の原因にもなり得る「人間関係」が良好になることで、得られる安心感がどれだけ大きいかは、あなたも重々ご承知のはずです。
ここでは後継者の育成、特に人間関係の部分を強調しましたが、大切なのは、後継者が決まったからと言って、一人に任せないという点です。
「株式会社糸惣」の場合は、後継者がご子息という方向に決定してからも、親子間の対話を大事にしつつ、新しい代に変わってからもスムーズに事業が運営できるよう、今の段階から私も交えていただきながら準備を進めています。
STEP4 事務手続き 株式・不動産などの資産の相続
株式や不動産など、企業の資産をまとめて承継していく必要があります。
事務的な内容なので、ここでは詳しくは触れませんが、後継者以外にも相続人がいる場合には、注意が必要となります。具体的には、次の様な方法が考えらます。
- 生前贈与
- 会社からの報酬として後継者に財産を分配する
- 議決権制限株式の利用 など
実際にどうすればいいのかは状況によって大きく変わりますが、こういった相続でトラブルになる場合もありますので、丁寧に準備を進めていく必要があります。
また、承継に関する税についても理解を深めておく必要はあります。事業承継税制を活用すると贈与税などの猶予または免除が受けられることも知っておきたいものです。
こうした事務手続きについては、ある程度の知識が必要ですが、専門的な立場の方々に教わりながら進めていけば問題ありません。
親から子への事業承継で最も大切なこと
家族・親子の形は無数に存在します。親子関係がとても良好に見えても、幼少の頃の想いをひきずり、素直になれないという場合もあります。また、大切な親だからこそ、自分の想いを押し潰してでも、親の理想を叶えてあげたいと考える方も見られます。
もちろん、こうした親子間の気持ちを大切にすることも必要ですが、事業を営むということは、大変なことであり、
- 取引先の方々の暮らし
- 取引先の方々の暮らし
- 社会への影響
を担っていくという強い意志を後継者がもっているかという意志確認が大切です。繰り返しになりますが、表面的な言葉だけで判断するのではなく、苦難も乗り越える覚悟があるのかその心の内側を見極めることが重要です。
事業を営むということは、必ず「良い時・悪い時」に遭遇します。どんなに悪い時でも懸命であれば、必ず支えてくれる人がいるということも後継者に伝えていくべきことだと思います。